2016年9月19日月曜日

絶食、氷河、カヤック


 浜から食料が流された。満潮のラインを読み間違えたからだ。
 テントで目が覚めて、いつものように朝ご飯のために食料を取りに行く。海岸に昨晩置いておいた食料箱がないことに気がつく。昨夜寝る前に、満潮時のラインを計算し、そこより高くに置いたはずだった。その辺に落ちていないか探し回るが見当たらない。ガスやその他、食料以外のものは数個見つかる。
 ある程度歩き回って諦めた。
 潮は僕の4日分の食料を持ち去り、僕に初めての試練を与えた。今まで食料がなくなるという撮影行はなかった。
 カヤックで、船に降ろしてもらったポイントまでは戻ることができる。しかし、船が来るのは2日後の昼。それまでどのように凌ぐか。気持ちは焦っていなかったが、先を考えると、なんとかしなければならなかった。しかし、この入江の末端、ジョンズホプキンス氷河の撮影は、僕にとって絶対必要だった。
 撮影は外せないから、その辺にあるものを食べることにした。食べられるものなどあるのか。まず、氷河から溶け出した水と持参したフィルターがあるので、飲み水は確保できる。これで2日くらいなんとかなると思った。氷河が後退したばかりのところには、地衣類が生えた後、低木層が育ち、そこにソープベリーがなる。それは食べられる。あとはヘラジカの好きな柳の葉っぱでも食べればいいだろう。
 早くに気持ちを切り替え、氷河の末端の近付けるところまで近づいた。うまく上陸できるところがあり、300の望遠で氷の崩落を5時間待った。崩落が面白いように起こる、とてもアクティブな氷河だ。またしばらくの沈黙が続くと、空腹が押し寄せる。柳の葉をかじるが、うまく飲み込めない。
 
 浜にはネメス夫妻がいた。結局、彼らにクラッカーのご馳走をもらった。クラッカーをかじり始めた時、僕は情けなくなってきた。カヤックの長旅は3回目で、もうアラスカに来て8年にもなるというのに、初歩的なミスをして、アラスカの人に助けられた。
 この夫妻は長く、グレイシャーベイ唯一の町グスタバスに住んでいる。この海のことはよくわかっている人達だった。夏の時期は二人でダブルカヤックを漕ぎ、自然をただ見て回るのだという。写真を撮るわけでも、体験を文章に起こすわけでもなかった。