2013年10月7日月曜日
プリンス・ウェールズ島での日記 17
7月8日
島に入って18日目
久しぶりに朝から強い雨が降っている。霧雨のように しとしと と降り続けるのは南東アラスカらしいと感じる。しかし、時折強くなり、テントの上のブルーシートに音を立てて落ちはじめれば、僕は外へ出たくなくなる。今日は休日と決めていたので、テントでゆっくり過ごすつもりだが、雨のせいで湿度が高く、本やその他の書類、ペーパータオル、衣類など全てが水分を吸収し、体もべたつく。気温は15度くらいだから、暑さは無い。
さて、きのう歩いたときに見つけたのは、オオカミがテリトリーの中心に示す(Sent post としての)糞、たくさんの足跡、ランデブーサイトと思われるところを2カ所、それから新鮮なWolf kill (今回は仔ジカ)だった。今までで一日としては、最も多くの痕跡を見つけたことになる。これは、やはりオオカミの巣の近くを歩いた結果だろう。
途中3つの、巣らしき穴を発見したが、どれもタテ:35センチ、ヨコ:25センチくらいのオオカミの巣穴としては小さいものであった。さらに、それが巣であるなら、今年使っていることになるので、もっと周囲にアクティブで新鮮な痕跡が見つかるだろう。これらは、素人から見てもオオカミのものではないと判断できた。おそらくマーティンのものだろう。結局きのうも巣を見つけることはできなかった。
明日、ついにレイモンドとオオカミ調査に出かける。巣の位置は教えてくれないだろうけれど、ここで得られる情報は、大変貴重なものとなるだろう。その他、できる限りの質問をし、今後に役立てたい。しかし、なんとしてもオオカミをこの目で見たい。そして願わくば、写真を撮ることができれば、今回の撮影行は成功となり、次回からのプロジェクトのモチベーションともなろう。
プリンス・ウェールズ島での日記 16
7月7日
島に入って17日目
ひどく疲れた。Honker Divide Pack は間違いなく僕から避けた。
朝6時に出発して、19時30分にキャンプに戻った。途中、5分休憩を4、5回とった以外、ひたすら歩き続けた。Honker Divide Pack のさまざまな痕跡を見つけることに成功した。続きは明日書くことにしよう。
2013年10月6日日曜日
プリンス・ウェールズ島での日記 15
7月6日
島に入って16日目
ひとつ別のルートを発見した。地図を見続けること2時間。Honker Divide Pack のテリトリーの中心への、より近いルートをみつけた。このように、地図をよく眺めることは、撮影行には欠かせない。事前の島へ出かける前にアンカレッジでもよく地図を見ていたのだが、実際に現地に到着してから眺めるのとでは、予測の深さが違う。そのため撮影行の途中時間があれば、できるだけ周辺環境を把握するよう努める。とくにはじめての場所での場合はなおさらだ。
実は2日前、レイモンドにあったときにHonker Divide Pack についての詳細を尋ねた。そのときに巣の一を大まかに指差したので、これを見逃さなかった。研究書の内容とは異なり、今年、Honker Divide Pack は、なんと原生林の中に巣をかまえていない。レイモンドの人差し指は、ちいさな湖の辺りで円を描いた。...池から100メートル以内として、ビーバーの巣がまずこの池にはあるだろうな。僕の頭の中は研究書で固められていた。
プリンス・ウェールズ島での日記 14
7月5日
島に入って15日目
今日は、独立記念日と週末の間の平日なので、クレイグの町にある、公共の図書館が開いているはずだった。そのため、キャンプ場からクレイグまでタクシーにして、帰りは4時間の自転車の旅とした。ことは全てスムーズに済ませることができた。図書館は予想どおり開いていて、メールチェックができ、銀行口座の確認、食糧調達、洗濯にシャワーを浴びることもできた。こんな日常の雑事が、撮影の行程中はふつうできない。
帰りはじめるのが17時を回ってしまったため、自転車での帰りを少し急ぐ必要があった。途中、80年代に切られた山や、今もアラスカでいちばんの木材産出を誇っている木材工場、Viking Lumber. Co. で写真を撮った。
町までのタクシーは、またデールさん(ここの島の面積は広くても、いかに発展途上で人口が少ないかわかる)。またいろんな話をした。彼がこの島に来た88年以降、携わった道路工事では、山を上から削り、爆発物を使って山を破壊し、道路をつくった。主要な町と町を結ぶ時、途中にある自然を少なからず破壊するのは、残念だが当たり前のことである。「おかげで今では、スムーズに他の町へ移動ができる。」デールさんは、仕事で北のコフマンコーブと言う港町へよく出かけるので、とても楽になったのだろう。彼は現在の州知事、ショーンパーネルを讃えている。前回知事のサラペイリンに比べ、ローカル産業の活性化に力を注ぎ、この島での雇用増進も進めている。TLMP(Tongass Land Management Plan)というトンガス国有林での森林管理規定を更新し、新たに林業に力を入れる。林業に力を入れるというのは、言い方を変えれば、森を破壊することを進めていくということ。このデールさんの意見は、とても興味深かった。
自分がこれから行おうとしていることは、部外者にして「島の発展=デールさんたち町の人の、豊かな暮らし」を抑制する動きをするということ。
この質問は、来週レイモンドに会うときにもしてみようと思う。おそらく立場がちがので、明らかに180度違う答えが予想できるが、答える内容に興味がある。
2013年10月3日木曜日
プリンス・ウェールズ島での日記 13
7月4日
島に入って14日目
時に考えや思いなどは、高まると、自分のそのときの意思とは無関係に作用するときがあると時折感じることがある。すでにそういうことになる以前に、そのアイデアとなるものは、細分化され、煮詰められ、十分に熟成されていることを条件に発生する。
なぜかこういうことは、一夜漬けのアイデアではうまく行かず、言葉にしても、伝える側がいる場合に、その言葉は相手の根底にまでたどり着かない。きのう僕が夢中で話し始めた時、アイデアの材料となる論文は、すべて頭の中にあり、それを自分の言葉として話していた。「22個あるオオカミの巣は、すべてオールドグロースにある。Honker Divide のテリトリーの中心にはその主要な森林帯が無いが、一体彼らはどこに巣をかまえているのか。」
レイモンドは、おそらくオオカミ研究者と話をしていた感覚だったろうと思う。とても具体的な話をした。後半は話が発展して、日本にオオカミが棲息を再開することになる場合、この島のオオカミたちが、日本の生態系に適合するのではないかとか、トラップの方法は改良されて、毛をサンプルとしているが、これはオオカミが通り過ぎたり、地中に埋めてあるトラップを掘り出したときに、毛や皮膚がトラップに残るようになっていて、あとでDNA鑑定により同定するなどの、詳しい研究方法まで話が及んだ。そして僕は、「Do I have a chance to go to the field with you? (あなた方と一緒にフィールドに出かけることは可能だろうか?)」とたずねていた。レイモンドは快く返事をしてくれた。そしてすぐにスケジューリングしてくれて、当日同伴するであろう人と電話で話をしていた。
プリンス・ウェールズ島での日記 12
7月3日
島に入って13日目
朝5時に起き、長い一日であった。キャビン最終日であったため、荷物を片付け、北のベースキャンプまで戻る必要があった。その行程は5時間。森、川、ログジャムのなかを歩くのはさすがにしんどい。キャビン滞在のときのオオカミ調査とは違い、湖の右の岸(東)を歩くのだが、多少Wolf kill と思われる、オグロジカの骨は散在するものの、これと言って明確なサインは見当たらない。やはり左岸(西側)がアクティブエリアであるのは間違いなさそうだ。そんな調べをすすめながら黙々と歩いた。来るときよりも食糧分の重量が軽くなっていて、結局は1.5時間ほど早く、ベースキャンプへ到着した。7日間もテントを放置したのははじめてだったが、動物があらしたあとも、誰かが来ていじくり回したあとも見られず安心した。このところ天気もよく、ほとんどの日には雨がぱらつくものの、8日間のうち、5日は晴れだったと言って良い。これは南東アラスカにおいては珍しいことだろう。
ブッシュについた朝露でびしょ濡れになった服を着替え、軽食をとり、顔を荒いひげを剃った。7日ぶりだったので、とてもさっぱりした。疲れていたが、これにより気分を変えて、すぐに移動の準備をした。タクシーがここから3kmのところに午後1時に来ることになっている。
タクシードライバーのデールさんは、今日は息子さんと奥さんを乗せている。僕をピックアップする前に、コフマンコーブの町で仕事をした帰りらしい。僕は今回の旅で、特にこの島での移動や情報収集の不便さに困惑していたので、生活のことや町の人の話などをした。
この7日間でオオカミの決定的なものを写真におさえることができなかったので、どうしても Thornebay の町にあるレンジャーステーションへ行く必要があった。何かしら手がかりを得られるかもしれない可能性に賭けた。オフィスに到着したのが午後2時20分、あと10分で今日は閉まるところだった。
本当に運河よかったとしか言いようが無いが、このオフィスに、僕が研究していた論文、「アレキサンダー諸島のオオカミ」を書いた人物のフィールドパートナーがいた。フィールドパートナーとは、論文研究をデスクでする人の補佐役で、実際に野外に出て調査に当たる人のことで、研究者よりも、このフィールドパートナーのほうが、実際の動物の生態には詳しかったりする。そのフィールドワーカーの名前は、レイモンド。ナショナルフォレスト(USDA Forest Service)の職員だ。彼は論文の著者、David Person とともにこの島のオオカミを研究している。彼は、もとはマーティンのトラップを仕掛け、その個体数調査などをしていたのだが、そのトラップ技術の高さが認められ、オオカミのためのトラップに力を注いでくれという依頼があり、それ以降、オオカミ研究に従事している。年齢は35くらい。もともとオオカミに興味があったわけではないが、関わり、勉強していく中で、これほど生態系に重要な役割を果たす生物は他にいないと確信したという。いまでは、このプリンスウェールズのオオカミの重要性を、共同研究によって証明し、人々に伝えたいという思いで仕事をしている。
このような経緯を知り、僕は夢中になって話を始めていた。気付いたら2時間が経っていて、7月9日に8:30amから一緒にオオカミ調査に行こうということになっていた。
プリンス・ウェールズ島での日記 11
7月2日
島に入って12日目
湖の南側半分の左岸を調べて歩いた。興味深かったのは、キャビンのちょうど対岸辺りから、南側の湖岸沿いには、オオカミの痕跡が一切見当たらないこと。少なくとも糞や毛であれば、1年から2年、シカの骨となれば10年くらいは残りそうなものだが、全く見つからないということは、この近辺がオオカミのhabitat use ではないと考えられる。
早くもキャビン滞在最終日の前日となった。。この一週間のうち、湖を中心に歩き回ったが、オオカミの巣を見つけることはできなかった。ただし、オオカミの遠吠えを聞き、オオカミの生活の痕跡を見て、この付近にオオカミが棲息していることを確認した。2013年のこの夏は、僕にとってプリンスウェールズ島研究の初めの年に過ぎないのかもしれない。このあと、もう一週間、島での滞在が残っているので、引き続きオオカミ情報を追ってみる。
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