2011年9月24日土曜日

ハクトウワシ

アラスカの夏は太陽の光が一日中ふりそそぎ、植物から動物まで、生き物のサイクルが急進する時期。植物であればこの時期の100日間しか成長することはできず、動物であれば外界の場合この時期に子育てをするケースが多い。町から少し外に出てどこかに腰をかけていれば30分もしないうちに自然が大忙しで、この時機を逃さんとばかりに動いていることが見て取れる。

場所はアンカレッジから車で南に2時間半のスワードという港町。中央アラスカでいえば最南端の漁業で有名な町。日本からの暖流が流れてることもあり、アラスカにしては比較的暖かい地域でもある。ここに5月中旬から沿岸部を中心に松の木に営巣しているハクトウワシを見ることができる。この時期に限らず年間を通してこの地域にいる定住性のハクトウワシもいれば、冬の間餌を求めて南東アラスカまで移動する移住性のものもいる。


5月30日、アラスカでのハクトウワシの産卵はアメリカ本土の個体に比べて長ければ一ヶ月も遅い。この大きな巣を持った夫婦は母親がずっと抱卵していた。もちろん僕の存在は彼らの視覚によってずっと捉えられている。刺激を与えないよう動かずに観察。

6月19日
はっきりとした灰色の和毛のヒナ。卵からかえって2週間たたないくらい。3羽は母親が健康であり、巣も十分な大きさであるという証拠でもある。このころの親の緊張感がピークだったように思う。また30分に一度は巣へ餌を持ち帰り、子どもたちはそれを驚く程の食欲で体に取り込んでいった。


7月20日
子どもが大きくなればなるほど頻繁に餌を巣に持ち込まなくてはならず、両親ともに交互に狩りに出かけるとはいえ、巣を空ける時間は長くなる。子どもたちは自ら巣立ちを早めようと自分の産毛をちぎり取り、風が吹けば羽ばたきの練習を繰り返す。3羽とも均等に成長していったのは親の狩りの熟練度が高いこと、また子育ての経験が豊富であることのあらわれである。それに限らず、今年は少し時期が遅れたものの例年より多くのサーモンが遡上して来たことから、海からとれるエサの量も十分であったに違いない。

動物写真家、原田純夫さん



アラスカ州デナリ国立公園でツアーの仕事がシーズンを終え、自分なりに撮りたい撮影地を日本から来た友達と回り、一息ついた。この期間中に自分の写真の道を大きく変えうる出来事がいくつか起こった。これは良い方向になるとか、悪い方向になるという話ではなく、これらのことに対して自分がどのように対応するかということにかかっている。

その中でも特に影響の大きかったことは、動物写真家の原田純夫さんとの出会いである。国立公園で、おしゃべりをしながら、写真を撮りながら一日一緒にまわった。原田さんは舞台を日本にとどめず、北米を拠点に現役で仕事をされている。この点では僕と同じ構想をもっていた人。

その氏からの

「日本で一番って、井の中の蛙」

「動物をテーマにアラスカといっても、アラスカは人が決めたボーダーだけれど」

「あなたは将来的に何かひとつテーマを持った方がいい」


これら3つの言葉で、原田さんの動物写真に対する考え方がわかる。そして僕は刺激され、動物写真家に対する考え方が深まった。そして、それが何たるかが少し見えて来た。


原田さんと話をしてから7日が経つ。

まずテーマはその撮影行の都度持っていればいいのではないのか、一生のスパンでのテーマは必要なものなのか、とテーマを持つことへ疑うことから考え始めたが、やはり必要なことだと結論づけた。それは自分の写真のスタイルを確立するためであり、自分にしかできない本当のプロフェッションを見いだすためである。

いまだに自分の生涯のテーマについて考えているが、だいぶ構想は固まって来た。それをいつか自然に出てくるからと言って蔑ろにするのではなく、主体的に押し進めていく必要性をいま強く感じている。この先多くの制約の中で活動を進めていかなくてはならないが、その制約の中にこそヒントはあるものだとして、まずはテーマのはっきりしたプロジェクトを実行してみる。


2011年9月23日金曜日

スシトナ川からのアラスカ山脈


北米最高峰マッキンレー(6194m)を擁するアラスカ山脈
アラスカ中央部を東西に走るアラスカ山脈は太平洋プレートの北への動きでできた山脈。これが途中噴火したり、氷河によって山肌をゆっくり削り取られたりしたことで今現在の地形となっている。それくらい長期間での時間の流れを考えた時、この山脈すらも一時的な形に過ぎないことを思うと、モノそれぞれに相対的に時間は関係していて、山の時間、氷河の時間、木々の時間、リスの時間、ヒトの時間があって、それらは別々に存在はするものの、それぞれが主観的にしか捉えることができないという世界の違いを想像してしまう。こういう風景を見ていると、木から見れば人はあまりにも早く動き回っていて一生を閉じているんだという見方が少しだけ認識できるようになる。

ハヤブサ

Peregrine falcon breeding
北極圏で見たハヤブサの子育て。彼らを含む多くの猛禽類は北極圏の短い夏のうちに子どもを大急ぎで育て上げなければならない。冬の寒さが到来する前に子どもたちが飛べるよう成長できなければその場で力つきてしまうからだ。

そんな忙しい母親の邪魔はしたくなかったので、極力刺激を与えないようゆっくり動き、地味な服装で近づいた。巣のあった場所は川の流れで削り取られてできた崖。

写真はちょうど夏至の頃、おそらくこの子どもたちは生後1ヶ月たたないくらいだろうか。5月末頃に生まれたことになる。

ここで面白かったのは、母親がすでに子どもたちを自立させようという教育のステージに入っていたこと。写真はちょうど餌を与えているシーンだが、実はこのころ母親はすぐには餌を与えていない。というのは、一度、餌のネズミを巣に持ち帰るや、それをすぐに持ち去ってしまう。そして巣から50メートル程のところに降り立ち、しばらく子どもたちの様子を窺っているのだ。子どもたちはというと、母親が巣から離れると、すぐに鳴きだし、その直後に羽ばたきのしぐさをする。

明らかにまだ和毛で子どもたちは飛べるはずもないことを母親は恐らく知っているに違いない。少しでも早く飛べるようになることがこの自然で生きていくための条件となることを教えているようだった。