2013年10月3日木曜日

プリンス・ウェールズ島での日記 12


7月3日 
島に入って13日目

朝5時に起き、長い一日であった。キャビン最終日であったため、荷物を片付け、北のベースキャンプまで戻る必要があった。その行程は5時間。森、川、ログジャムのなかを歩くのはさすがにしんどい。キャビン滞在のときのオオカミ調査とは違い、湖の右の岸(東)を歩くのだが、多少Wolf kill と思われる、オグロジカの骨は散在するものの、これと言って明確なサインは見当たらない。やはり左岸(西側)がアクティブエリアであるのは間違いなさそうだ。そんな調べをすすめながら黙々と歩いた。来るときよりも食糧分の重量が軽くなっていて、結局は1.5時間ほど早く、ベースキャンプへ到着した。7日間もテントを放置したのははじめてだったが、動物があらしたあとも、誰かが来ていじくり回したあとも見られず安心した。このところ天気もよく、ほとんどの日には雨がぱらつくものの、8日間のうち、5日は晴れだったと言って良い。これは南東アラスカにおいては珍しいことだろう。

 ブッシュについた朝露でびしょ濡れになった服を着替え、軽食をとり、顔を荒いひげを剃った。7日ぶりだったので、とてもさっぱりした。疲れていたが、これにより気分を変えて、すぐに移動の準備をした。タクシーがここから3kmのところに午後1時に来ることになっている。

 タクシードライバーのデールさんは、今日は息子さんと奥さんを乗せている。僕をピックアップする前に、コフマンコーブの町で仕事をした帰りらしい。僕は今回の旅で、特にこの島での移動や情報収集の不便さに困惑していたので、生活のことや町の人の話などをした。

 この7日間でオオカミの決定的なものを写真におさえることができなかったので、どうしても Thornebay の町にあるレンジャーステーションへ行く必要があった。何かしら手がかりを得られるかもしれない可能性に賭けた。オフィスに到着したのが午後2時20分、あと10分で今日は閉まるところだった。

 本当に運河よかったとしか言いようが無いが、このオフィスに、僕が研究していた論文、「アレキサンダー諸島のオオカミ」を書いた人物のフィールドパートナーがいた。フィールドパートナーとは、論文研究をデスクでする人の補佐役で、実際に野外に出て調査に当たる人のことで、研究者よりも、このフィールドパートナーのほうが、実際の動物の生態には詳しかったりする。そのフィールドワーカーの名前は、レイモンド。ナショナルフォレスト(USDA Forest Service)の職員だ。彼は論文の著者、David Person とともにこの島のオオカミを研究している。彼は、もとはマーティンのトラップを仕掛け、その個体数調査などをしていたのだが、そのトラップ技術の高さが認められ、オオカミのためのトラップに力を注いでくれという依頼があり、それ以降、オオカミ研究に従事している。年齢は35くらい。もともとオオカミに興味があったわけではないが、関わり、勉強していく中で、これほど生態系に重要な役割を果たす生物は他にいないと確信したという。いまでは、このプリンスウェールズのオオカミの重要性を、共同研究によって証明し、人々に伝えたいという思いで仕事をしている。
 
 このような経緯を知り、僕は夢中になって話を始めていた。気付いたら2時間が経っていて、7月9日に8:30amから一緒にオオカミ調査に行こうということになっていた。



 


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