2013年10月7日月曜日

プリンス・ウェールズ島での日記 19


7月10日 
島に入って20日目

 今日は、この島の滞在で一番の収穫の日になった。なんと、オオカミの巣を発見した。

 レイモンドにある程度場所は予想させてもらっていたので、自分で見つけきったとは言えないが、オオカミの巣をこの目で見た。本物の、この島で一番勢力の強いHonker Divide Pack の居城である。それは、想像していた以上に大きく、ひとつの生態系の頂点に立つ哺乳類が、群れで住むに適した立地の条件のように思えた。具体的にどういうことかと言うと、まず、枯渇することの無い水源が、巣から30メートルのところにあり、その周囲は、この群れのためだけに作られた庭園のように、仔たちが遊ぶに十分な広さの開けたスペースがあり、巣の周囲はオープンキャノピーだが、ブルーベリーやアルダー(ハンノキ?)などの低木によって覆われていて安全である。いわゆるこのスペースが、この群れにとっての本当のランデブーサイトである。

 巣の中心は小高い丘にあり、数本のシトカスプルースの根本に掘られ、アルファメスが、安全に出産できる、広さ一坪くらいで、深さ40センチくらいの空間がある。いま目の前にあるこの巣穴で、アルファメスは今年も仔を産み、育てたのだ。この中心の巣穴は左右にも出入り口があり、ひとつ穴ではない。また、この穴から3メートル以内に、他の群れのメンバーが入り込める穴が3、4つある。この巣穴のエリアは、先ほどのランデブーサイトよりも10メートルは高い位置にあり、群れのメンバーが、出かけているメンバーと遠吠えによるコミュニケーションで合図を取り合う、ハウリングをする場所としても十分に満足いくようなところである。僕は、オオカミのこの、ハウリングするときに、少しでも高いところに登ってするという行動がとても好きだ。

 巣の外観はそんなところだが、マクロな視点で見る、巣のロケーションとしても、無意味にここに巣をかまえたわけではなさそうだ。地図を広げてみると、人間が利用する、道路、林道、キャビンなどが散在するが、この巣の位置は、興味深いことに、どの方角にあるこれらの施設からも、ほぼ等距離にあり、5kmは離れているのだ。そんな理由で、僕がここにたどり着くのが困難であったのだが、大きなオオカミの群れは、やはり人間を避け、深い自然の内部へと入っていかなければならないのだ。

 オオカミを見ることはできなかったものの、僕はここまでたどり着いた。着想から5年が経つ。今回のプロジェクトは、実質行動できるのが明日のみとなり、あさっての12日には港へ行き、ケチカンの町に戻る。自分がオオカミという動物に非常な興味を持ち、願わくばそんな自然と関わって仕事がしたいと考えた、21才の図書館でのことを思い出した。様々な意味を含めて、これからのこのウェールズ島でのプロジェクトは、僕にとって重要なものになる。



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