2013年10月2日水曜日

プリンス・ウェールズ島での日記 5


6月26日 
島に入って6日目

 Honker cabin に到着できた。地図上で見ると、スタート地点からは直線距離にして5kmなのだが、鬱蒼と茂る藪や谷と川、また今回は特に倒木に行く手を阻まれ、結局午前9時に出発し、着いたのが午後4時。7時間もかかってしまった。背負う荷物の重量は30kg近くあり、これも疲れを倍にした。しかし、キャビンが見えたときは、やっとここで7日間オオカミの研究調査ができると思い、晴れた気分であった。

 この付近の木々は、シトカスプルース、西洋ツガ、レッドシダー(このThuja plicataはアラスカの本土にはない)、アラスカシダー(Chamaecyparis nootkatensis)これらがほとんどを占める。中でも原生林に入り、樹幹の直径が150cm以上ある木を見ると、そのほとんどが杉の仲間、つまりレッドシダーとアラスカシダーのようである。これらの木々はもちろん整列しているわけではない。あらゆる要素、地形、緯度、気候、方角、周囲の植物との相関関係により、人間には予測ができない、限りなく無秩序に近い秩序のもとに乱立している。

 しかし、長く歩いてみると、水と光ということをキーワードに、ある法則があるように思う。しかもこの水源が地表に露出しているところ、つまり湖、池、川、沼地の近くでは、スカンクキャベツやシダ類、そしてこれらはクローズドキャノピー(空が木々に覆われて閉じられており、直射日光が地面に注がない森林のこと)の中であり、光が極めて届きにくい、制限あるところで繁茂している。池や沼では、その水域の広さが広がるほど、その岸辺は必ず日が射し込むところとなり、スカンクキャベツやシダ類から、スゲ類にとってかわる。水源が地表に出ておらず、地下を流れる場合、その地表からの水源の深さと木々の高さは、必ずしも比例しているとは言えないが、少しの相関はありそうである。

 今日歩きを阻まれた低木類についても、少し記述しておく必要がある。この周辺のアンダーストーリーの薮には、いくつかのブルーベリーとrusty menzesia 、サーモンベリー、そしてハイキングのときにはとても厄介な、デビルズクラブ(ハリブキ)が存在する。このハリブキは、ちなみに、棘があるために触れられないにもかかわらず、倒木が多い斜面や、川岸で滑りやすそうな石の隙間から生えていることが多い。僕は何度かこれをつかんでしまったことがあるが、あまり思い出したくもない。このハリブキの樹皮は、とても滑りやすい。これを靴でかき分けて、踏み倒しながら進むしか他に方法がないときは、注意を要する。このことも、ハリブキが厄介な植物と言われている理由のひとつであろう。

 6月末現在のプリンスオブウェールズでは、アーリーブルーベリーは実をつけ始めていて、先端の方の、実が直径1cm以上あるものであれば、食べられるほどに熟している。このブルーベリーの薮は、歩いているととても邪魔になるのだが、途中の休憩につまんで頬張るととても疲れが癒された気分になる。そんなあとに、この木を見ると、あたかも手のひらの上に1粒の実をのせて、「どうぞ、お召し上がりください」と差し出しているように見えることがある。どうもこれは人間の都合の解釈だが、あちらも利益があるわけで、これもひとつの取り引きなのだと思うと、自然はとても面白い。



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